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東京高等裁判所 昭和47年(ラ)520号 決定 1972年9月26日

抗告人 岩崎秀夫

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および抗告理出は別紙記載のとおりである。

よつて按ずるに、

一  抗告人は、静岡市役所掲示板(ガラス張箱型)における本件競売期日は民事訴訟法第六六一条第一項第二所定の公告方法に違背する旨主張するが、なるほど静岡市役所掲示板における本件競売期日の公告が抗告人主張のような方法でなされていることは、抗告人提出の甲第四号証の一ないし三によつて認めることができるけれども、競売期日の公告は競売に関心を有する者がいかなる競売が行なわれるかを知り得るようにすれば足りるものと解すべきところ、競売期日の公告に関する書類が何枚も重ねて一方の肩に穴をあけて紐を通してぶら下げられ、しかも他の公告書類の下になつているため、その内容が隅から隅まで読み得るような状態になくても、競売について関心を有する者にその書類が競売期日に関する書類であることが判り係員に申出て掲示されている書類を見ることができる体制にある場合は、右公告は適法というべきである。

本件競売期日に関する公告書類が静岡市役所の掲示板において他の公告書類と重ねて掲示されていることは公告方法として理想的な状態ということはできないけれども、甲第四号証の一ないし三によれば、競売に関心を有する者であれば右書類が競売に関するものであることは容易に判る状態におかれていることを認めることができ、また閲覧の申出が係員によつて拒絶されたというような特別の事情がない限り静岡市役所の係員はその勤務時間内においては右申出に応じ得る体制にあつたものと推定するのを相当とするところ、本件について右のような特別の事情のあつたことを認めるに足る資料は存しない。従つて本件競売期日の公告は適法になされたものと解するのを相当とする。

よつて、この点に関する抗告人の主張は理由がない。

二  次に抗告人は原決定添付物件目録記載の附属建物(附属第一号一、木造亜鉛メツキ鋼板葺弐階建作業所壱棟、床面積壱階九五・七〇平方メートル、弐階弐九・七四平方メートル)は本来、申請外岩崎たけ子の所有にかかるものであるが焼失してその所有権が消滅しており、本件競売期日公告添付物件目録に右附属建物の現況として記載してある木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建作業所床面積八五・九五平方メートルは右岩崎たけ子が建てたものであるから右建物に対する本件競売期日公告および競落許可決定は違法であると主張するが、本件競売申立書添付の登記簿謄本によれば、本件競売の目的たる不動産が所有者岩崎秀夫の所有に属することが一応認められるから競売申立の要件に欠けるところなく原審がそのまま競売を続行実施したのは正当であつて何等違法の点がない。もつとも抗告人提出の甲第一、第二号証には、本件附属建物は昭和四四年六月一〇日全焼した旨の記載があるが、本件記録編綴の昭和四六年一〇月二七日付鑑定評価書によれば、本件附属建物は約七〇パーセント(二階および一階の一部)を焼失し、その後焼残り部分を中心に補強改造がなされその同一性を失うことなく現在に至つていることが認められ、本件附属建物の現況に関する右認定を左右するに足りる資料は存しない。抗告人は補強改造の前後を通じて本件附属建物が岩崎たけ子の所有にかかる旨主張するが、かりにそのとおりとしても真実の所有者岩崎たけ子は自己の権利を主張して競売実行中は民事訴訟法第五四九条により強制執行異議の訴を提起し、競売終了後においても競落人に対し所有権確認の訴を提起してこれを争うことができる反面、抗告人は競売の目的不動産が抗告人に属しないことにより全く損失を被むることがないのみならず、もともと他人の権利に関する理由によつて競落を争うことはできない(競売法三二条、民訴法六七三条)のであるから、抗告人は右事実を競落許可決定に対する不服の理由とすることができずこの点についても抗告人の主張は理由がない。

三  しかして記録を精査しても他に原決定を取り消すべき違法の点を見出すことができない。よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 浅沼武 加藤宏 園部逸夫)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。

抗告の理由

第一点

一、疎甲一号証の一ないし四によつて明らかな如く、静岡市役所における本件競売期日の公告が、同市役所前面ガラス張箱型の掲示板に本件不動産競売にかかわる公告に関する書類を、他の公告書類の下に重ねて一方の肩に穴をあけて紐を通し、ぶらさげていて、全く競売の公告であるか否かも外からみたのではわからない。わずかに重なり部分から僅かにはみだした部分に執行という文字があるのみで、これでは何の公告であるか全然わからない。不動産競売が存することすらわからないのであつて、競売期日の公告であることは全然わからない。

二、してみると本件競売は、競売法二九条によつて準用される民訴法六六一条第一項の第一に規定する不動産所在地の市町村の掲示板に適式な競売期日の公告がなかつたこととなり、違法な公告による競売ならびに競落許可決定は取消さるべきである。

第二点

一、本件競売の物件目録のうち

静岡市馬渕二丁目五九番地の弐

六拾番地の弐

家屋番号同所五九番弐

一、木造瓦葺二階建居宅 壱棟

床面積 壱階 六九・八六平方米

弐階 壱弐・参九平方米

附属第一号

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺弐階建作業所 壱棟

床面積 壱階 九五・七〇平方米

弐階 弐九・七四平方米

(以下単に附属建物と称する)

現在は木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建作業所 床面積八五・九五平方米

(以下単に附属建物現況と称する)

は本件競売の対象たり得ない。すなわち、

二、附属建物については焼失して、右建物に関する所有権が消滅していることは、債権者も認めているところである(判決113丁~118丁就中115丁裏)。さらにこのことは、右本訴において、被告の方から乙一号証、同二号証として証拠が出ている。このように本訴においては所有権を否定しながら競売では所有権を認めるということは、禁反言の法理ないし信義則に違背するものである。

三、なお次の二点を附言しておく

(1) 、附属建物は、本来、岩崎たけ子の所有であること。

(2) 、競売の公告に、現況とあるが、これは鑑定書(一二七丁裏)が、焼失したあととりあえず焼けた材料の一部をも利用して建物を建てたものを同一性ありと誤つた判定をしたことに基づくものであつて、かつ、焼けた後に建てられたものはやはり岩崎たけ子の建てたものである。したがつて右の誤つた鑑定書に基づいてなされた公告は違法であり、これに基づく競売は取消されなければならない。

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